来 歴

庭の中

天は高いところへ
ひばりの秘密をのぞきに行つて
そのままおりてこない
雷と一しよにいて
いたましい声をたてることもある
途方もなく大きな庭だけが残つて
来る日も来る日も持ち主を待つている

決して私のせいではない
いつまでも実らない草
年老いて片腕折られた梅もどき
それらの身代わりのようにして
私の人生ははじまつた
人間と植物とのきつてもきれないえにしには
だまつて従つたまでのこと


知らぬまに行きついて
せまい門をくぐつたとたんに道にまよつた
故郷の村は日ごとに遠くなり
私が何もしたわけではないのに
つらい目にばかりあわされる
かつて夢想した
運命の華麗さなどどこにも見当たらない


この荒れた庭に
果たして春がめぐつてくるのであろうか
粘土で作つた
男の首などまたいで徘徊すると
記憶はぐんぐん崖の方に傾いて行き
これもはかりごとの一つにちがいない
私の髪にはもうまつ白に霜がおりている

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